こんにちは。石井久美子バレエプロジェクトのつっちーです。猛暑がぶり返す今日この頃ですが、皆さまはいかがお過ごしでしょうか。新型コロナの変異株が増加の一途をたどっていますので、体調管理にはくれぐれも気を付けてあと少しの8月を乗り切りましょうね。
さて、今回のballet project通信♯28は、「ウクライナ国立バレエ スペシャル・セレクション2025」東京公演の様子をお届けします。
5月に石井久美子バレエプロジェクト内で、「ウクライナ国立バレエ スペシャル・セレクション2025」の子役オーディションが開催されたことは、皆さまの記憶にも新しいと思います。(YouTubeにてオーディションの様子を配信中)
この舞台に立ちたいと願う多くの少女たちがオーディションに挑みましたが、本番の舞台に立てたのはわずか4名です。少女たちはすべての候補者の想いを胸に2か月に及ぶリハーサルを経て、本番の舞台に臨みました。
気になる本番ですが大成功で幕を閉じましたので「ウクライナ国立バレエ スペシャル・セレクション2025」東京公演の様子を振り返ってみましょう。

ウクライナ国立バレエの舞台に立つということ
「本番前に読んでね」
久美子が楽屋を後にする前、ふたりへ手紙を手渡しました。久美子の手のぬくもりが残る、ほんのりとまだ温かい手紙です。
ひとりの少女は受け取った時、目に涙を浮かべていました。 ふたりは「お守りにする」と言い、大切に胸に抱えて本番前の舞台袖へと向かいました。
2022年2月24日。平和なウクライナの街は戦争により一変しました。戦禍でありながらも、人々は自国を愛し未来に希望を託しながら生きています。ウクライナ国立バレエ団も、そんなウクライナの屈強な精神の表れであります。
ウクライナ国立バレエ団で芸術監督を務めているのは、日本人である寺田宣弘芸術監督です。また、主催する光藍社はウクライナと日本のバレエを繋ぐ架け橋となっています。ウクライナの芸術を代表する、歴史ある名門バレエ団の舞台に一緒に立つということは、4人の少女たちにとっても忘れがたい経験となることでしょう。
第1部では『ゴパック』『ラ・シルフィード 第2幕よりパ・ド・ドゥ』『ディアナとアクティオンのグラン・パ・ド・ドゥ』『Remembrance』(大阪・関西万博出展作品 8月9日東京公演のみ)『海賊 第二幕より“花園の場”』
第2部では『ゼンツァーノの花祭り』『コッペリア第3幕よりグラン・パ・ド・ドゥ』『瀕死の白鳥』そして、『ラ・バヤデール第二幕より』です。
少女たちが出演するのは『ラ・バヤデール第2幕より“壺の踊り”』です。リハーサルを重ねてきた少女たちは、どんな踊りを見せてくれるのでしょうか。私たちも楽しみでなりません。
楽屋でのお話
本番当日。まだ客席が埋まらない舞台で、出演者全員のレッスンが始まりました。スポットライトの淡い光が出演者を優しく照らしています。そこには子役5人の姿もありました。
「怪我をしないように。できないことは無理にやらないように」と、久美子が声をかけます。子役たちからは極度の緊張は見られず、楽しんでいる様子が伝わってきます。隣のダンサーに話しかけられ、笑顔がこぼれる場面も見られました。
本番前にバーレッスンをはじめセンターレッスンなど、プロダンサーの方々と一緒に貴重なお時間を頂くことができました。
(寺田監督がお誘いくださり久美子もレッスンに参加)
レッスン後は衣装合わせとメイクです。本番を迎えるふたりのヘアセットとメイクは、久美子が直接手がけました。
楽屋はメイクの甘い香りに包まれます。客席からも目鼻立ちがくっきりと華やかに見えるように、久美子はふたりに丁寧にメイクをしていきます。桃色のチークをそっと頬にのせ、小さな唇に赤い口紅を重ねます。

メイクが仕上がるとふたりは顔を寄せ合いながら鏡を覗き込み、少し大人になったような嬉しさと恥ずかしさの入り混じる、はじける笑顔を見せてくれました。
開演1時間前。
「本番前に読んでね」
久美子は客席から舞台を見守るので、ふたりに手紙を手渡し楽屋を後にしました。楽屋には子役と瑛先生、こっちゃん先生とそして撮影スタッフが残りました。

楽屋は終始、笑い声溢れる和やかな空気が流れていましたが、瑛先生が「本番前だから、いつでも踊れるように準備して」と告げると、緊張感の溢れる空気へと様変わりしました。プロの舞台に何度も立ってきた瑛先生の言葉には重みがありました。
開演~子役たちの初舞台~
第1部。ひまわりを背景に、男性ダンサーたちによるウクライナの民族舞踊『ゴパック』で幕を開けました。ウクライナの人々にとって、ひまわりは平和・忍耐・明るい未来を信じる象徴です。
屈強な肉体と精神を感じる力強い舞に、観客たちは手拍子をおくります。高く跳躍するダンサーたち。客席からは「ブラボー」の歓声があがりました。
続いて『ラ・シルフィード』第二幕よりパ・ド・ドゥ。
純白のロマンチック・チュチュで踊る、愛らしくロマンチックなパ・ド・ドゥです。スコットランドが舞台なので、男性ダンサーは民族衣装であるキルティングスカートを履いています。妖精らしいかろやかなポワントに、ふたりのもどかしい想いが伝わりました。
あっという間に第1部が終わりました。第2部ではいよいよ『ラ・バヤデール 第2幕より“壺の踊り”』子役たちが出演します。本番が近づくに連れて緊張気味のYちゃんが、こっちゃん先生と振付を念入りに確認します。
きっと、大丈夫。オーディションに合格し、週末を返上してリハーサルを重ねてきたのだから。これまでに一番素敵なキラキラの笑顔で輝いて。
マヌーが頭に壺をのせて登場し踊り始めます。いよいよ、子役の出番です。
舞台袖から、エメラルドグリーンの衣装を着た子役が登場しました。ふたりの姿に最高潮に胸が高鳴ります。
ねえ、そのお水。私にちょうだい。
マヌーのスカートの裾を持ち、ちょうだいちょうだいと愛嬌たっぷりに踊ります。

観客もふたりの子役に温かい視線を送っています。
「ブラボー」の声もあちらこちらから聞こえてきました。日本の子役がウクライナ国立バレエの舞台に立ち、プロダンサーと一緒に堂々と踊り歓声を浴びる様子は感無量で誇らしい気持ちでいっぱいになります。
ほんのひとときの共演でしたが、子役の持つ力と愛らしさが溢れる踊りは大成功で幕を閉じました。
盛大な拍手で迎えるカーテンコールに何度も丁寧なおじぎで応えるふたりの姿は、立派なプロのダンサーにしか見えませんでした。

舞台で踊るって最高に楽しい
幕が閉じると、久美子は舞台袖に駆けつけてふたりに言葉をかけました。
「ふたりとも上手だったよ!ちゃんと綺麗に踊れてたしキラキラ輝いてたね」
久美子の労いの言葉に、ふたりは達成感と安堵に満ちた清々しい表情をしています。この日の経験がきっと今後の糧となり自信へと繋がることでしょう。そして出演の叶わなかった少女は、悔しい想いをバネにさらに成長し、次のチャンスへと結びつくことを信じて疑いません。
8月11日の公演ではこんな出来事がありました。舞台に出ていくタイミングを少しミスしてしまい、ひとりの少女が本番後もずっと泣いてしまったそうです。完璧を目指す思いが強いからこその涙でしょう。
舞台袖にはけてきた子役を、こっちゃん先生は慰めます。
「今は悔しいかもしれないけど、プロの舞台をこんなに間近で見られる経験はないから最後まで目に焼き付けよう」
終演後に久美子も舞台袖に行き、涙を流す子役へ励ましの言葉をかけました。
「大丈夫!大丈夫!ちゃんと切り替えられてた。あそこでちゃんと踊りきれて偉かったよ!」
そしてにっこり微笑んでこうも告げました。
「でも、舞台で踊るって楽しいでしょう?」
サプライズとこれから
本番を終えた子役たちへは、久美子からサプライズのプレゼントが渡されました。プリザーブドフラワーで作られたチュチュの小さな置物です。この日のために久美子が用意したもので、子役たちは充足感に満たされた笑顔でプレゼントを受け取りました。
こうして、オーディションから始まった『ウクライナ国立バレエスペシャルセレクション2025』は無事に幕を閉じました。平和な時代に平和な場所で生まれ、何事にも恐れずひたむきに打ち込めるということが、どれだけ幸せで尊いことなのでしょうか。
少女たちにとってこの夏の思い出は、夜空を煌めく花火のような一瞬のひとときでしたが、心の中で永遠に生き続けることでしょう。時が流れるほどに輝きと美しさを増して。
