ballet project通信

【#036】石井久美子インタビュー2025


ballet project通信では、石井久美子バレエプロジェクトの裏側やバレリーナ石井久美子の素顔、驚くハプニングや笑える話、感心してしまう話、泣ける話などなど、みなさんと共有したい話題を、密度高く発信していきます。余暇のお供に気軽に楽しんで頂けたら嬉しく思います。

皆さん、こんにちは。石井久美子バレエプロジェクトのつっちーです。今年も残すところあとわずかとなりましたね。頑張ってきた1年とやり残したことに思いを巡らせる時期ではないでしょうか。寒さがますます厳しくなってきますが、元気な体で年末を乗り越えましょう。

さて、今年最後の配信となるballet project通信#36は、石井久美子のインタビューをお届けします。今年の久美子は、マリインスキーへの復帰を目指し、自身の体と向き合い続けた一年でした。結果として今年の復帰は叶いませんでしたが、その過程で見せた挑戦し続ける姿勢、踊りへの揺るぎない情熱に深い感動と勇気を与えてもらいました。

指導者としても、オンラインレッスンをはじめ対面レッスン、そして全国各地への出張レッスンまで変わらぬ熱意で走り続けた一年でもありました。

今回のインタビューでは、久美子自身の言葉で、この一年の歩みと今の気持ちをを語っていただきました。その率直な思いが、皆さまの心にも届きますように。それでは久美子のインタビューを一問一答でお届けします。お楽しみください。


──マリインスキーバレエ劇場は久美さんにとってどんな場所でしたか。
マリインスキーは私にとってかけがえのない場所でした。
足を踏み入れることができる人は本当に限られていて、運が良くても、なかなか踏み入れることができないすごい場所だったと今でも思います。言葉では言い表せないほど、マリインスキー劇場は特別な場所です。

──ワガノワ時代も含めて、ロシアで踊っていた頃を思い出すとどんな気持ちになりますか。
一言では難しいけど、「ロシアではほんとにいろんな体験をしてきた」と思っています。日々、あらゆる感情が渦巻いていたし、踊りながら多くの成長と失敗を繰り返した場所がロシアでした。すべての感情を思い出します。

──日本で教師として活動する中で、「このままダンサーとして復帰はせず、教える道が自分にあっているのかもしれない」と思ったことはありましたか。
それはありませんでした。
いつも復帰のことが頭の片隅にあって、マリインスキーで踊れない現実があるから「今できることが指導だな」って。「復帰」を常に頭の片隅に置きながら、生徒たちへ指導していました。

──久美さんの中で、舞台で踊ることと教えることの違いはなんですか。
踊ることと教えることは全くの別物です。
あえて言うなら、「踊る」ことは「見せること」。そこを追求すること。
「教える」ことは、人それぞれの良さを最大限に「引き出す」こと。
踊ることみたいに「自分が体現できればいい」じゃなくて、教えるということはいろんなレベル、いろんなポテンシャルの人がいて、その人たちの力をそれぞれ引き出してあげないといけない。分からない人にも分かるように指導して、自分ではない他人の良さを引き出してあげないといけない。「踊る」のように自分だけの問題ではないから、「教える」では、自分ではない人をコントロールする難しさを感じています。

──復帰を目指していた時期、スタジオで毎日行っていたストレッチやトレーニングなどのレッスンは、鬼気迫るものがありました。その努力は久美さんにとってどんな意味がありましたか。
今、私が何かに取り組んで頑張っていることは、遠くても近くても自分の思い描く未来へ繋がるものだと思っています。「復帰」という完成するパズルを、一つ一つ組み合わせていくような作業かなって。気が遠くなるような作業かもしれないけど、自分に自信をつけるための行動の一つだったと思います。

公式Instagramより

──ストレッチやトレーニングに励む中で、復帰は難しいかもしれないと感じた瞬間はありましたか。
もちろんありました。
この4年間、復帰したくてもできない。そういう歯がゆい気持ちは心の奥でずっとあって。だけど、どこかで復帰できるチャンスを待っていました。

だから「復帰は難しいかもしれない」というよりかは、「元気な自分、まだ眠ってるな、早く起きないかな」と、思っていました。

──監督から「今年の復帰は叶わない」という知らせを受けたとき、胸の中で最初に浮かんだ感情を覚えていますか。
「衝撃、ドーン」そんな感じでした。
ああいう言葉には、誰でもドキッとすると思います。コロナになってからは寝たきりの日もあり、痛みでストレッチすらできない時期もありました。その頃に比べたら、そうした物理的な壁は乗り越えられたつもりでした。

でも、毎日レッスンをして、リハーサルをして、公演に立つ。そのパフォーマンスができるかといえば、その体力がまだないことは自分でも分かっていました。

ストレッチもここまでできるようになった、脚も上がるようになった、踊ること自体はできるようになった。でも「毎日踊れる体か?」と聞かれたら、そうではなかったと思います。
少し無理をすると気持ち悪くなったり、血の気が引いたり、座らないと動けなくなったり。レッスンに行けない日もありました。

もしこの状態で監督がOKを出したとしても、それは形だけの復帰になってしまう。それを本当に「復帰」と呼べるのか。マリインスキーでのハードな生活を知っているからこそ、そこには自信が持てませんでした。

踊りそのものは、昔の自分より絶対に良くなっている自信がある。でも同じくらい、体力的な準備がまだ足りていないという実感もありました。

だから今年は無理と言われた時に、どこかホッとした自分がいました。自分でも厳しいのではないかと分かっているのに、止められなくなっていた部分があったから。このまま無理して行けば、また倒れて同じことを繰り返すだけかもしれない。そう思うと、安堵がスッと落ちてきました。

今年1月からは、復帰を目指して毎日スタジオにこもりっぱなしで朝9時から18時まで、ストレッチやトレーニングを続けていました。

今日は具合が悪くて行けないという日もあったけれど、1日休むだけでプレッシャーを感じたし、「まだ自分は完成していない」「全然進んでいない」という焦りもありました。

具合が悪い日でも、5分だけやって30分休んで、また5分やってと、とにかくスタジオに行ってできることは全て取り組んでいました。外から見れば無茶なやり方だったかもしれません。

それでも、周りに止められても、泣きながらでもやり切ったからこそ、後悔はひとつもないです。甘えも妥協もそこにはありません。

周りには「石井久美子、悔しいだろうな」と思われているかもしれません。もちろん悔しい思いはあります。復帰できない自分に対して「今の私は、その程度の実力なんだ」と思うこともあります。

それでも、やるだけやったという実感があるので、復帰が叶わないと聞いたとき、意外なほど安堵がストンと胸に落ちてきました。

──今後、日本で教師だけでなくダンサーとしても活動したいとYouTubeで語ってくれました。ファンの方は久美さんの踊りが観れることを心待ちにしていると思います。それに向けて準備していることはありますか。
舞台に立つための体を作り、また皆さんに踊りを見せたい。その思いはずっとありました。もともと私は、人に頼ることの大切さを現役時代から感じていました。マリインスキーでも担当のリハーサルティーチャーがいて、公演以外でもたくさんのレッスンを重ねて、人に支えられながら学んできました。

今は教師としてプロダンサーにも指導していますが、人に頼ることでこんなに伸びるんだ、と実感する時があります。自分では見えなかった部分が見えてくることもあって、教えながらもその大切さを感じています。

だからこそ、私も頼ってみようと、今はマリインスキー時代の同僚であり先輩でもあるフェージャに、レッスンをつけてもらっています。

ただ、これは舞台復帰に向けた準備というより、あくまで通常のレッスンの延長として。舞台に立てる日がいつになるかはまだ分かりませんが、フェージャに見てもらいながら、踊りの感覚を呼び戻しているところです。その日が来るのを待っていてください。

──長い間支えてくれたご家族に伝えたい言葉はありますか。

家族にはいろんな支え方をしてもらっていて、まずは仕事の面で。忙しすぎてプライベートどころではないけど、プライベートでもやはり支えてもらっています。
石井家は持ちつ持たれつな関係だと思っていて、私も家族にお世話になってるけど、私も家族を支えています。

お互いがお互いの足りないところを補って成り立って、出せない力を家族全員で手を繋いで発揮しているんじゃないかなって。日本一のバレエ学校を作ろうと思えたのも家族がいたからだし、ダンサーとしての夢を諦めずに今こうやってできているのも家族のおかげですし、家族にはたくさんの感謝を伝えたいと思っています。

──最後にこのメルマガを読んでくださっているファンの皆さまへメッセージをお願いします。
いつもレッスンに来てくださったり、SNSなどで私の発信していることに興味を持って見ていただきありがとうございます。

私はバレエを通じて「見られる立場の仕事」をしていて、こうして見てくださる方がいるから、今の私という存在が成り立っています。

舞台で踊っていただけの時は個人主義の世界でもあり、自分だけが輝いていれば良かったという一面もありました。だけど今は家族をはじめ、ファンの方、会社のメンバー、たくさんの支えてくださる方々のおかげで、今の私が成り立っているので心から感謝の気持ちでいっぱいです。

DMで長文を送ってくださる方もいらっしゃいます。そのために時間を使い、言葉を選んでくださっていると感じるので、とても温かい気持ちになりますし、そういうメッセージは本当に嬉しいです。だから、リアクションをつけたりと自分ができる範囲で、返信もなるべくするようにしています。

SNSなどは人気を得るために発信しているわけではなくて、日本のバレエ界を変えていきたいと思っていますし、そして私のことを応援してくださるみなさまへの恩返しでもあるかなと思っています。
劇場や街中で私を見かけることがありましたら遠慮せず声をかけてください。声をかけていただけると私も嬉しいです。みなさんの思いが私にもしっかり届いているということを伝えたいです。

今回のインタビューを通して、久美さんがこの一年どれほど真摯にバレエと向き合ってきたのかが改めて伝わりました。

私も幾度かスタジオに出入りすることがありまして、ストレッチなどに励む久美さんの姿をこの目で見てきました。扉を開けるとスタジオ全体が熱を帯びていて、事務所で無邪気に笑う久美さんとは別人のようで、これがプロの情熱と気迫なんだということを肌で感じました。

復帰を目指して努力を重ねた日々は、決してうまくいくことばかりではなかったかもしれませんが、久美さんはいつも前だけを向いていました。
描いた未来とは少し違う形だとしても、その過程は久美さんの軌跡として刻まれていき、灯のように輝く導となると私は信じています。そして、これからの活動に必ずや生かされていくと思います。バレリーナ石井久美子のひとりのファンとして、この先も応援し続けていきます。

また、このインタビューが皆さまの心に寄り添い、バレエと歩んできた一年を振り返るきっかけとなりましたら嬉しく思います。

今年も石井久美子バレエプロジェクトを支えてくださり、本当にありがとうございました。そして、メルマガにも温かい感想をお寄せくださいまして心よりありがとうございます。来年もまたここで、皆さまと心を通わせるひとときを過ごせますように。どうぞ良いお年をお迎えください。