皆さん、こんにちは。石井久美子バレエプロジェクトのつっちーです。春のやわらかな陽ざしの中で、別れと出会いが交差する特別な季節ですね。環境が変わる方も変わらない方も、新たな一歩を踏み出せますように。
さて、今回のballet project通信#41は、2026年3月13日公開のアニメーション映画『パリに咲くエトワール』の作品レビューです。
20世紀初頭のパリを舞台に、ふたりで夢を追いかける日本人少女を描いたハートフルな物語です。
それではご一緒に『パリに咲くエトワール』の世界へー
黄金期と呼ばれた輝かしいベル・エポックのパリへ時間旅行にでかけましょう。

繊細で美しいアニメーション
フジコと千鶴のふたりが眩しくて可愛くて、我が子を応援するような思いでスクリーンに釘付けになってしまいました。
夢を追いかけることの尊さをしばらく忘れていたなあって、映画館を後にする頃には、甘酸っぱい気持ちで胸の奥がじんわりと温かくなりました。物語の舞台が現代ではなく100年前のパリというのが、少女たちの夢や情熱をよりノスタルジックに鮮やかに映し出したように感じます。
この映画の見どころは、なんといってもアニメーションの素晴らしさです。当時のパリの街並みや建造物が圧巻で、ため息がこぼれるほどの美しさに目を奪われます。

一枚一枚が丁寧に描き込まれており、大胆なアングルやカメラワークに制作陣の細やかなこだわりが伝わってきました。
そびえ立つエッフェル塔、光が降り注ぐパサージュ、荘厳な教会のステンドグラス。アニメの世界に迷い込んだかのように、ベル・エポックのパリへといざなってくれます。

モンマルトルの丘やセーヌ河岸など、当時の風景の再現度が高く、映画館にいながらパリならではの芸術の空気を感じられました。
監督は「映画館での鑑賞」を前提にアニメーションを制作したといいます。自宅で気軽に映画鑑賞が叶う今の時代ですが、ぜひ劇場で、大スクリーンならではの没入感をじっくりと味わっていただきたいと思います。
こだわりのバレエシーン
このメルマガで紹介するからには、忘れてはならないのがバレエシーンですね。『ジゼル』『ラ・シルフィード』『白鳥の湖』『眠れる森の美女』『くるみ割り人形』『二羽の鳩』『コッペリア』などがスクリーンに登場します。
千鶴にバレエを教える、同じアパルトマンに住むオルガはロシア出身のバレエダンサーです。けれど、千鶴がバレリーナとして花開いていくのはフランス。ロシアバレエとフランスバレエの違いがわかるのも、この映画の見どころのひとつではないでしょうか。踊りの背景にある文化の違いを知るのも面白いですね。
ロシアバレエの振り付けを担当したのは、元ウクライナ国立バレエ劇場の田北志のぶさんです。ロシアダンサーであるオルガの踊りは、志のぶさんの動きをベースに、モーションキャプチャで映像に取り込み、アニメーションとして表現したそうです。
フランスバレエのシーン「ジゼル」「二羽の鳩」の振付は、パリオペラ座バレエ団の元エトワールであり、現在パリオペラ座バレエ学校の講師であるウィルフリード・ロモリが監修しました。
「人生で一度も経験したことがない仕事なので興奮した」とオファーを受けた時の気持ちを語ってくれています。正確な位置まで進むためのステップが足りているのか、舞台のサイズに収まるのかまで丁寧に確認したそうで、その熱心な仕事ぶりにはさすがとしか言いようがありません。
百聞は一見にしかず。これはぜひ映画館で、ロシアバレエとフランスバレエの違いを見比べてほしいです。振付に合わせて奏でられる、オルガの息子・ルスランのピアノの音色も美しいので、じっくりと耳を傾けてくださいね。
監督の挑戦と王道アニメーション
これまでも『ONE PIECE FILM RED』などの、人気作品を送り出してきた谷口悟朗監督ですが、「少年が主人公の物語とは違う方向の作品を作りたい」という思いから立ち上げた企画だそうです。
ゼロベースで立ち上げた作品に親しみを与えてくれたのが、キャラクターデザインを務めた近藤勝也さんです。『魔女の宅急便』『崖の上のポニョ』などで知られる近藤さんの描くキャラクターは、懐かしさと安心感を与えてくれますよね。
(食べ物の描写もジブリ風に、シズル感たっぷりに描かれていて美味しそうでした!)
フジコと千鶴を見ていると、自分の夢をこんなにも応援してくれて、一緒に追いかけてくれる友人がいることが微笑ましく羨ましくも感じました。
夢を追いかけたことのある人。今まさに挑戦の途中にいる人。
現実と夢の狭間で少し立ち止まっている人。
夢を描いたことがない人。
どんな人がみても背中を後押ししてくれる映画ではないかと思います。数々のポジティブな言葉に何度もハッとさせられました。夢を描くことって、どんな時代であっても古い価値観にとらわれない、自由の象徴でもあると思うのです。
今の社会情勢とも重なる部分に少しの悲しさを覚えましたが、緑黄色社会の主題歌「風に乗る」が、爽やかな疾走感とパワーを与えてくれます。
(声優もぴったりで、声の通りのよいイケボがいるなと思ったら、津田健次郎さんでした!)
この春、スクリーンの中で花咲くふたりの夢を、一緒に追いかけてみませんか。諦めかけていたことをもう一度頑張ってみようかなって、きっと前向きな気持ちになれるおすすめの映画です。
