こんにちは。石井久美子バレエプロジェクトのつっちーです。キンモクセイの香りが漂い、秋晴れの空が心地よい季節となりました。朝晩との寒暖差が激しい時期ですので、体調管理にはくれぐれも気を付けてお過ごしください。
さて、今回のballet project通信#32は、#31に続きまして、ベルリン国立バレエ団のプリンシパルとして国際的に活躍なさる佐々晴香さんのインタビュー後編をお届けします。
ドルトムントからスウェーデン王立バレエ団に入団された佐々晴香さん。そこで彼女を待っていたのは、バレエ観を根底から変えることとなる恩師、二コラ・ル・リッシュとの運命的な出会いでした。

スウェーデン王立バレエ団~ベルリン国立バレエ団(現在)
ースウェーデン王立バレエ団には5年間在籍していましたが、特に印象に残っているエピソードなど聞かせて頂けますか。
二コラ・ル・リッシュとの出会いが私のバレエ人生を大きく変えてくれました。今までの私は、こう踊りたいという思いが強かったのですが、二コラは「こういう風に脚を出せば、こういうエフェクトがあるんだよ。だけど、こう出すとこう変わるから、こっちもできるよね」って。バレエは答えがひとつじゃないというように、深く学べて実験的にもなりバレエがより楽しくなりました。
ースウェーデンでは念願のプリンシパルになられましたが、その時はどんな気持ちでしたか。
プリンシパルになることが長年の私の夢で、入団して2年後にプリンシパルになりました。
その日は2020シーズン開幕のプレミアで、マカロワ版『ジゼル』で主演させて頂きました。観客席には、バレエマガジンなどでしかお会いしたことのないレジェンドたちがいらっしゃり、私は怪我なく最後まで踊り切れたことだけでも幸せでした。
その日、舞台が終演してカーテンコールが終わり、二コラからプリンシパルへの昇格の発表がありました。本当にあの日は夢のような夜で忘れられません。

ー情景が浮かぶような素敵なお話です。二コラとの出会いが晴香さんの未来を方向づけてくださったのですね。
二コラとの出会いがなければ、今の私はありません。でも、まさかその日にプリンシパルになるなんて夢にも思ってなかったんです。長年、プリンシパルになることが私の夢であり頂点であって、そのあとのプロモーションなんて考えたこともありませんでした。
だけど、夢が叶ったのは一瞬の話でここからがスタート。カーテンが閉まって「始まったね」って言われました(笑)
ープリンシパルに昇格されて、ご自身の中で意識の変化はありましたか。
プリンシパルはもっとキラキラしているイメージがあったのですが、次の日からスタジオに入るのもプレッシャーでした。みんなが納得する踊りをしなければならないと、大きな荷物を背負っているようにも感じました。だから、あまりキラキラしたものではないなって。
ープレッシャーと覚悟が感じられます。キラキラと言えば、煌びやかなグスタフ3世の宮殿で撮影された『瀕死の白鳥』があります。スウェーデンの建国記念日に配信されましたが、あの時はどのようなお気持ちでしたか。

『瀕死の白鳥』
『瀕死の白鳥』を踊るのはその時が2回目でした。初めて踊ったのは、あるレセプションで短い演目として。でも私は、ただ振付をなぞるように踊るのがどうしても好きになれなくて、二コラにお願いして「クレールマリをつけてください」と頼み込みました。
白鳥の“死”の瞬間をどう描くかは演じる人によって違います。私は最初「この白鳥は最初から瀕死なのかな」と思っていました。でもクレールマリの解釈では、物語の始まりはまだ穏やかで、アティチュードのポーズをとった瞬間に撃たれる。そこから命の灯が揺らぎ始める、というものでした。その一つひとつの動きの意味を丁寧に教えてもらいながら作り上げた、思い出深い作品となりました。
ー素晴らしい経験でしたね。“死”の解釈も興味深いお話です。恩師とめぐり合い、これ以上ない環境だったと思いますが、なぜ移籍を考えられたのでしょうか。
プリンシパルになって世界がコロナ禍になりすべてが停止した状態になりましたが、二コラから学んだことが私の財産で、どんな役を踊っても楽しかったし新しく学ぶことがありました。だけど、まわりのダンサーからインスピレーションを受けることがなくなっていたのです。
私は本来、上に立つ人間ではなくて、誰かをルックアップしていたいんです。だけど、その存在が二コラしかいなくなってしまって。
二コラは監督なので、常にスタジオにいたわけではありません。だけど私はスタジオでまわりのダンサーからインスピレーションを受けることが必要で、それがなくなってしまったのです。
そのことを正直に二コラに話したら「環境を変えた方がいいかもしれない」と、言ってくださりました。
ー晴香さんのさらなる成長を願っての二コラの言葉ですね。
でも、あなた(二コラ)から学ぶことはあるので、スウェーデンに戻ってきたいし、リハーサルもしてほしいと伝えました。そしてオーディションを経てノルウェー国立バレエ団に行くことになりました。
ーノルウェー国立バレエ団はいかがでしたか。
ノルウェーには1年間滞在していました。作品にも恵まれ、素晴らしいダンサーたちとの出会いにも恵まれ、本当に貴重な経験でした。
けれども、毎日のリハーサルを終えると「もっと挑戦したい」という気持ちが、心のどこかで残るような感覚があって。
もしかしたらあっていないのかな…と、ノルウェーに来て3ヶ月ほど経った頃に感じるようになりました。
ーそうだったのですね。そして現在、在籍するベルリン国立バレエ団へ。
プリンシパルになると、そもそもオーディションが少ないんです。監督としても、外からプリンシパルを呼ぶより、下のダンサーからあげていきたいんです。
外から呼んでしまうと、「ああ、私はどう頑張ってもプリンシパルになれないんだ」と、考えてしまう人があらわれてしまうので。
この話を聞かせてもらったことがあって、なるほどって思いました。
オーディションで落ちるというより、プリンシパルの枠がない状態でのオーディションでしたが、そんな時、ベルリン国立バレエ団がプリンシパルを探していたんです。
そこからアプライして、ベルリン国立バレエ団へ入団することになりました。
ーいくつかのバレエ団に在籍してきましたが、ベルリン国立バレエ団はいかがですか。
アレックスのリブという作品でデビューしましたが、その後マルシア・ハイデの『眠れる森の美女』で主演をさせて頂きました。
マルシア・ハイデの『眠れる森の美女』は、スウェーデンでも踊っているので、マルシアも知っているし、スウェーデンにいたときのバレエマスターがベルリンに移籍していたので、私のことも知ってくださっていたので、本当に運が良かったです。
ベルリンの街も私に合っていると思います。ここではみんなが好きなように生きている。お洒落してもいいし、パジャマで出てもいいし誰もジャッジしないんです。
それがカンパニーにも生きています。

ーベルリンは多種多様なカルチャーが共存する国際都市のイメージがあります。
ベルリン国立バレエ団は9割ぐらいが外国籍の方で、ドイツ人は1割ぐらいです。いろんな個性があっていろんな踊り方をする人がいて、互いに認め合う環境があります。海外のバレエ団はそれが本当に素晴らしい環境です。
例えば、ドン・キホーテのキトリを踊る。(スペイン人の)キトリってどんな反応をするんだろうと思った時に、隣にスペイン人がいる。彼らはそれを演じているのではなく、自然と出る表情や動きなので、そういうことが踊りにいきてきます。
ー日本では想像するしかないですよね。
ーここからは一問一答形式で質問をさせてください。今後の目標について聞かせて頂いてよろしいですか。
私はあまり未来をみないタイプで、今、頂けるチャンスを精一杯やっていこうというのがモットーで、目の前のことに必死に向きあっていることが多いです。
だけど…ロミオ&ジュリエットは踊ってみたいです(笑)
ーロミオ&ジュリエットは憧れますよね。
ー好きなオフの過ごし方など教えて頂けますか。
昔はひとりでいるのも好きだったのですが、今は人と一緒にいる方が好きです。ダラダラと好きなことして過ごす日もありますが、夏だったらみんなで海岸行って、いっぱい太陽浴びて元気になろうって(笑)
ーそれは楽しそうです(笑)
ー舞台に立つ前のルーティンなどはありますか。
声を出さずに顔を動かす「あいうえお体操」です。舞台前はいつも緊張するので、口を動かして表情を動かすようにしています。
ー長い海外生活で鍛えられたことはありますか。
私は日本より海外の方がリラックスできて、日本で踊る方が緊張します。海外で鍛えられたというより、海外があっていました。
日本には日本の良さがあって、マナーや礼儀正しさなどを大切にしています。だけど、海外ではあまり細かいことは気にしていなくて、頭の中が変わったと思います。
ー人として大切にしていることなどありますか。
人との出会いを大切にしています。人との出会いだけで私はここまできているので、繋がりを大切にしています。あとは感謝の気持ちを忘れずに謙虚でいることです。
ーどんな立場になっても謙虚さを忘れないことが大切ですね。最後に。プロを目指している子たちへ向けて何か一言お願いします。
プロのダンサーを目指す子には、バレエを楽しんでと伝えたいところですが、幼いときは特に、頑張らなければいけない時期だと思っています。私も幼い時に頑張ってきたからこそ、今をめいっぱい楽しめています。
楽しいだけではやっていけない世界ですが、バレエを好きって気持ちを忘れずに頑張りましょう!
ー本日はお忙しい中、大変貴重なお話をありがとうございました。
インタビューを始める前、スタジオでレッスンを終えた晴香さんと目が合うと、にっこりと明るい笑顔で応えてくれました。その姿はとてもチャーミングでハッピーオーラに包まれていて、まさに晴れの日の太陽のように光り輝き、周囲をあたたかく照らしてくださる方だと感じました。これからも佐々晴香さんのご活躍を心から応援していきたいと思います。
※佐々晴香さんは2025年10月31日から11月5日まで開催される光藍社主催「Ballet Muses -バレエの女神2025-」に出演予定です。詳細は公式サイトにてご確認ください。