こんにちは。石井久美子バレエプロジェクトのつっちーです。
冬本番が近づいてきましたが、小春日和が続く晩秋の頃が昔から好きです。街路樹が紅葉していく様も、クリスマスを迎えるイルミネーションの輝きも心を浮きたたせてくれます。
バレエの世界でクリスマスの風物詩といえば『くるみ割り人形』ですよね。私も大好きで思い出深い作品でもあります。
今回のballet project通信#12は『くるみ割り人形と思い出』です。くるみ割り人形にまつわる個人的な思い出話と、作品の魅力に迫っていきたいと思います。それでは、お菓子の国の世界へ一緒に旅立ちましょう。

『くるみ割り人形』はロシアのピョートル・チャイコフスキーが最後に手掛けたバレエ音楽で、ドイツのE.T.A.ホフマンによる童話『くるみ割り人形とねずみの王様』を原作として作られました。同じくチャイコフスキーが作曲した『白鳥の湖』『眠れる森の美女』と共に「3大バレエ」と呼ばれています。
クリスマスの夜の出来事がモチーフとなっていることから、クリスマスシーズンには世界各国で上演されます。初演は1892年にマリインスキー劇場で行われました。幻想的で華やかな聖なる夜のファンタジーで、子どもから大人まで楽しめるクラシックバレエを代表する作品のひとつです。

劇場への憧れ
私の母はバレエや演劇を観に行くのが好きで、幼い頃から劇場によく連れて行ってもらいました。記憶を遡るとバレエやオーケストラ、宝塚歌劇、劇団四季なども一緒に観に行きましたが、いつもより可愛い服を着てよそ行きの顔で訪れる劇場という場所は、幼心にも非日常を味わえる刺激的な空間でした。
幕間で人々が語り合うにぎやかな雰囲気が好きだったし、豪華なシャンデリアの眩さにも心奪われました。だけど強く心惹かれたのは、舞台から放たれる演者さんのエネルギッシュな魅力、そして演目の持つ豪華絢爛で美しい世界観です。
幕間にシャンパンを嗜める大人になり久しいのですが、今となっては歓談をよそにトイレの列へ足早に並んでしまう…残念な女性です。

バレリーナは妖精
私は3姉妹の末っ子ですが、2番目の姉が8歳からバレエを習っていました。一番上の姉はピアノとフルートを習っていまして、娘がピアニストやバレリーナになることを夢見ていた頃が子育てで一番楽しかったと、母は当時に想いを馳せます。
ん?私は?
「よしもとに入るしかないと思ってたわ」
姉たちに比べて滑稽な幼少期だったことに間違いはなさそうです。
閑話休題。
バレエを習い始めた姉がはじめて出演した発表会が忘れもしない『くるみ割り人形』です。
姉が通っていたバレエスタジオは、あの吉田都さんがバレエを始めたスタジオだったそうです。吉田都さんといえば、英国ロイヤル・バレエ団で金平糖の精を踊ったことでも有名ですね。その都さんが、特別ゲストとして発表会に出演なさってくれたのです。
もし、この世界に妖精が存在するのなら「バレリーナのことなんだ」と、その時私は思いました。まばたきの一瞬さえも惜しい。都さんのバレエは繊細で息をのむほど美しく、まるで都さんのまわりだけ時が止まっているかのように輝いていました。
もちろん久美さんもとっても素敵なバレリーナです。私も石井久美子バレエプロジェクトのメンバーとなりもうすぐ1年が過ぎようとしていますが、はじめて久美さんに会った日のことは、今でも鮮明に覚えています。
久美さんは小顔でスラっと背が高く、手足も驚くほど長くて麗しのオーラに満ちていました。腕をすっと上げるだけでバレリーナのそれで、だけどとってもチャーミングな女性。無邪気な笑顔で「つっちー!」と明るく声をかけてくださったのがとても嬉しかったです。
夫とくるみ割り人形を鑑賞

私は結婚していますが、夫と過ごすはじめてのクリスマスに『くるみ割り人形』を観に行きました。夫は人生初のバレエ鑑賞だそうで、劇場へ向かう電車の中で私はバレエの魅力と作品の見どころをたっぷり伝えます。
『くるみ割り人形』でクラシックバレエらしい場面といえば、雪の精が思い浮かびます。舞台にはらはらと舞い降りる粉雪の演出も美しく、雪の結晶に命が吹き込まれたかのような幻想的な姿をダンサーたちは見せてくれます。
「雪の精で第一幕が終わるんだけど、群舞(コール・ド・バレエ)が美しいから要注目だよ」
序曲が終わると、くるみ割り人形の幕があがります。チャイコフスキーの音楽にのせて、観客たちの胸が高鳴る瞬間です。
物語の舞台はクリスマスイブ。主人公の少女クララ(国やバレエ団によって名前は変わる)が、家族や友人たちとクリスマスのお祝いをしています。クララは名付け親であるドロッセルマイヤーから不思議な「くるみ割り人形」をプレゼントされます。

パーティーが終わりみんなが寝静まった頃、クララはふと目を覚まします。時計の針が真夜中の12時を告げると、ねずみの王様と大群がどこからともなく現れて、クララを怖がらせます。
そこへ「くるみ割り人形」が率いるおもちゃの兵隊たちが現れ、冒険活劇のように繰り広げられるねずみと兵隊たちの戦いを、観客たちはハラハラしながら固唾をのんで見守ります。
隣で観ていた夫も人生初のバレエ鑑賞体験に魅了されたのでしょう。頷きながら『くるみ割り人形』の世界にどっぷりと入り込んでいるようです。
というのは…私の勘違いでして、隣の席で夫は船をこぎながらコクリコクリと居眠りを始めているではないですか。
起きて!!
心の中で叫びたくなります。芸術鑑賞はどうやら苦手な夫みたい。結婚披露宴でも『くるみ割り人形』の音楽にのせて入場したのにな。

好きな場面
皆さんも『くるみ割り人形』を鑑賞したことがあるかと思いますが、どのシーンが一番好きですか。
第二幕の金平糖の精のグラン・パ・ド・ドゥも素敵ですが、私は第一幕でくるみ割り人形が王子様となり、クララと踊るところが好きなんです。
夢なのか現実なのか。音楽も静寂さと情熱がほとばしるドラマチックな曲調で、ここから物語がもうひとつ動きだしそうな予感に、何度鑑賞してもどぎまぎします。
久美子もマリインスキーで『くるみ割り人形』に出演したことがあるのはご存じですか。可愛らしいメロディにのせて、異国情緒たっぷりに「中国の踊り」をダイナミックに披露しました。

クリスマスには家族でくるみ割り人形を
『くるみ割り人形』はクリスマスのファンタジー作品。クリスマスにまつわる物語は奇跡が起こる作品が多く、人々の心に感動と幸せをもたらしてくれます。もしかしたら、クララは夢を見ていたのではなくて、本当におもちゃの国の世界へ奇跡の旅をしたのかもしれませんね。
今年のクリスマスは家族や大切な人と一緒に、バレエ『くるみ割り人形』の鑑賞はいかがでしょうか。チャイコフスキーの美しい音楽と共に、多幸感いっぱいの温かな気持ちになれることでしょう。